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上手に生きるために、小さな体験から本質的なことを深く学びとる~「学び」を導く「教え」の可能性~

汐見稔幸「『学び』の場はどこにあるのか」に次の一節がある。


「『学び』のプロセスは、何らかの感情の動きを伴っている。たとえば、新しい事態を以前の『知識』で理解できないでいたときに誰かから説明を受け、なるほどそうだったのかと納得し、それを取りこんで新しい『知識』を自分でつくるとき、その人は(小さな)感動という感情を体験するはずだ。(中略)そうか、こちらのアンテナの立て方で、ちょっとした体験からもたくさんのことを学べるのだと、そのときとっさに悟ったのだ。ひょっとしたら、上手に生きる人というのは、小さな体験から本質的なことを深く『学び』とれる人なのかもしれない。」


僕は、この部分を読んで「なるほど」と思った。汐見氏の主張は、僕自身の生き方を振り返ったり、教え子達について考えたりする際に、一つの示唆を与えてくれる。


子どもの頃の僕は、随分と変わった少年だった。他の子どもが見向きもしないようなことに興味を示し、それに対して、自分なりの目標を持って一生懸命取り組むことが多かった。


数十年前の話――某デパートの屋上には、子どもが遊べる遊具があった。幼い僕は、親が買い物している間、そこで一人で遊んでいた。ある日、いつものように遊んでいると、床にBB弾が落ちていることに気付いた。他の場所も見てみると、あちこちにカラフルなBB弾が落ちているではないか!というわけで、その日から、僕のBB弾収集が始まった。屋上に行く度にBB弾を探し回り拾い集めた。遊具には一切見向きもせず、黙々と収集を頑張った。半透明のBB弾を見つけたときなどは、随分と嬉しかったものだ。そんなことを続けていたら、いつの間にかかなりの数のBB弾が集まっていた。僕は、コレクションを眺めながら、幸せを感じていたのだ。


BB弾収集に限らず、僕は、皆が気にしないことを気にして没頭した。壁の凹凸に怪獣の姿を見出そうとしたり、庭の隅にゴミを盛って城を築いたり、雑草を磨り潰してウサギ用の餌を作ったり……誰からも評価されないことに一生懸命だった。そうした行動の中で、失敗しても何度もやり直すことや根気強く物事に取り組むこと、規則性の見つけ方などを学んだ。汐見氏が述べるように、小さな体験から「(小さな)感動という感情を体験」し「本質的なことを深く『学び』と」ったと言えるのかもしれない。


「深い『学び』を経験したから自分は優秀だ」と言うつもりはない。しかし、「上手に生きる」という点では、僕はそれなりに成功していると思う。ちょっとしたことに感動するのは、今も昔も日常茶飯事だ。


小学校の理科の授業で、鉄を熱すると体積が大きくなる、ということを実験で確かめた。たったそれだけのことに僕は心を激しく揺さぶられ、文集にその思い出を書いたくらいだ。そんな感じだから、日々の出来事に楽しみを見つける機会も多い。

先日、冷蔵庫の奥から、一ヶ月以上前に買ったデコポンを発掘した。それに包丁を入れてみたところ、全く傷んでいるところもなく、みずみずしい状態だった。僕は、そのでこぽんを美味しくいただきながら、文明の利器に改めて感歎した(笑)


僕は、「人生って楽しいんだよ!」と教え子たちに言う。それは、今まで積み重ねてきた小さな体験がもとになって、自然と僕の口から出てくる言葉だ。


一方で、僕に何を言われても、「つまんない」と応える生徒がいる。彼ら・彼女らには共通点がある。彼ら・彼女らは、小さな体験がもたらす感動ではなく、大きな成功ばかりを求めがちなのだ。


たとえば、例として中学3年生のA君を上げてみよう(A君は、「つまんない」を連発する生徒の典型例として、僕が創作した人物だ)


ある日、A君が数学の問題を持って僕に質問してきた。僕は、その解説の中で、途中計算を簡略化して見せる。が、A君は無反応。仕方ないので「ここでこういう計算をしたんだけど、気にならない?」と僕が尋ねると、彼は「いえ、別に……」と応える。ここに彼の抱える問題が潜んでいる。

数学は、論理的思考をベースに、小さな計算や解法を積み重ねることで最終的な答に辿り着く。つまり、数学では、最終的な答に至るプロセスこそが大切なのだ。しかし、A君は、最終的な結果が求められさえすれば、途中の計算に全く興味を示さない。これでは、数学を学んでいる意味がない!


「数学で答が求められさえすればいい」という考えは、数学の成績不振をもたらすだけでない。A君の日常生活も、次のような思考に毒されているのだ。


――定期試験で高得点を取れさえすればいい。

――受験で志望校に受かりさえすればいい。


A君が見ているのは最終的な結果――大きな成功だけ。彼にとって、結果に至るまでの過程はどうでもいい。むしろ、面倒な過程は、省略できるなら省略したい苦痛でしかないのだ。

本来、成功(結果)は、小さな体験の積み重ねの上に成り立つ。その小さな体験の一つ一つに感動し、そこから何かを学び続ける過程が、人生を楽しむ上で重要なのではないか?過程で手を抜き大きな成功ばかりを追い求めるが、その成功すら手にできないとしたら――「人生はつまんない」となるのは当たり前だ。そんなA君のような子どもが、最近は多いような気がする。


ここまで述べてきた僕は、しかし、生徒指導の現場で次のように言っている。


「結果が全てだ!『努力』とか『頑張り』とか、そんなのどうでもいいから、とにかく結果を出せ!」


ここでいう「結果」は、上記の「大きな成功」とは異なる。僕は、「定期試験で絶対に100点を取れ!」「志望校に絶対合格しろ!」と言っているわけではない。あくまでも、「大きな成功」に至る過程の小さな体験を「結果」と表現しているのだ。たとえば、宿題を完璧にこなすとか、小テストで毎回満点を取るとか、そういうレベルの話だ。僕は、「小さな体験をコツコツと積み重ねろ!」と生徒達に発破をかけているのだ。

この小さな体験は、「努力」や「頑張り」等といった主観的な感情で誤魔化されることが多い。生徒達の多くは、宿題に取り組んでいるだけで「勉強した」という充実感に浸り、自己陶酔の中で、本質的な学びにつながる感情を見失ってしまう。生徒達には、そうした「努力」や「頑張り」を捨て去り、小さな体験=「結果」に真摯に向き合う中で、「できた!」「分かった!」を沢山味わってもらいたいのだ。本当の意味での達成感が、生徒達の人生をキラキラと輝かせるきっかけになるからだ。


汐見氏は次のようにも述べる。


「『学び』の意味をこのように考えてくると、そこに必ずしも『教え』ということが必要とは限らないということが理解されるだろう。もちろん、『教え』が深い『学び』を誘発することはあるし、そうした『教え』を私たちは期待しているのだが、『学び』にとって『教え』が絶対条件ではないということを確認しておくことは大切なことだ。」


僕達「教える」仕事に従事する者にとっては営業妨害のような言葉だが(笑)、実際のところ、汐見氏の主張は正しい。僕達は、「教える」ことを絶対視してはいけない。

一方、最近の子ども達はどうも「アンテナの立て方」が下手なようだ。そんな子ども達をサポートするのが「教え」の役割であろう。学校教育で勉強する(させられる)ことが、子ども達の人生に直結することは少ないのかもしれない。しかし、「ちょっとした体験からもたくさんのことを学」び「上手に生きる」訓練として学校教育を捉えるならば、そこでの勉強が無駄になることは決してない。


――僕の言う「人生って楽しいんだよ!」が、生徒達の口からも出てきてほしい!


そんなことを思いながら、僕は日々子ども達と向き合っている。(了)


※汐見稔幸「『学び』の場はどこにあるのか」は、『ぼくたちの今―岩波ジュニア新書を読む』 (岩波ジュニア新書) に収録されている。


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[ 2014年07月28日 00:00 ] カテゴリ:妖怪以外の随筆 | TB(0) | CM(0)
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都内で家庭教師業を営むみみずく先生です。日ごろ、生徒さんや保護者様とお話ししながら、密かに妖怪文化の普及に努めています(笑)

現在、家庭教師業の傍ら、在宅ライターとしてのお仕事もしています。数社から継続して依頼を受けています。ライターとしての更なるスキル向上を目指し、不定期でこちらのブログも更新しています。

妖怪関係の記事や趣味の記事がメインですが、好きな人やお店等も紹介していくつもりです。エログロ・オカルト・アングラ・サブカル等、ちょっと過激な記事も紛れると思いますが、苦手な方はそういう記事を読み飛ばしてください。

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